1996年。
Windows 95が出て、パソコンが一般に広がり始めた頃です。日本のインターネット普及率は、まだ3.3%でした。
私はインターネットがしたくて、富士通のFMVというパソコンを買いました。17インチのブラウン管のディスプレイが、パソコン本体の上に乗っかったデスクトップ。
そのパソコンで、初めてホームページを作りました。
秀丸エディターというテキストエディターをインストールして、HTMLタグを一つ一つ覚えながら作っていった。当時大好きだったミュージシャンのファンサイトです。
自由に作ったものが、日本中の人に見てもらえる。そんなことって、これまでの人生ではなかった経験でした。夢中でやっていたから、HTMLタグもすぐに覚えられた。
一冊の本との出会い
1996年の終わり頃、大学の近くの書店で一冊の本を手に取りました。
『作ろう!魅せるホームページ実践テクニックガイド』(インプレス刊)。
「魅せる」という言葉に反応したんです。
当時の書店には、HTMLタグの使い方を説明した本しかありませんでした。「こうすればページが作れます」「このタグはこう使います」——技術の本ばかり。
でもこの本は違った。「見てくれる人を意識したホームページ作り」について書いてあった。
それまでの私は、自分が作りたいもの、自分がやりたいことをやっているだけでした。この本を読んでから、「見てくれる人」のことを考えるようになった。
実はこの本、今でも持っているんです。内容自体は、今読んで役に立つことは一切ありません。技術は30年で全部変わりましたから。
でも、私の今のホームページ作りの原点になっているので、手元に置いています。
「見てくれる人」を意識したら、何が変わったか
ファンサイトの作り方が変わりました。
自分が見せたいものを並べるのではなく、見に来る人が知りたいことを、見やすく、分かりやすく、楽しく伝えることを考えるようになった。
その結果、サイトは育っていきました。
所属事務所のスタッフやマネージャー、ファンクラブの担当者からも評価してもらえるようになって、直接、最新情報を提供してもらえるようになった。実質公認の公式サイトのような位置づけにまでなりました。
LINEもSNSもない時代に、いつも1000人ぐらいが集まるサイトになった。
個人が趣味で作ったサイトが、公式を超えた。「見てくれる人」を意識したことが、すべての始まりでした。
2000年。グランプリを取った理由
4年後、エイベックスが主催するWebデザインコンテストに応募しました。
一次審査を通過した218人の中から、グランプリを受賞しました。受賞作品はテレビや雑誌でも取り上げられました。
正直に言います。デザイン力ではプロのデザイナーに敵わない。技術力ではプロのエンジニアに敵わない。
じゃあ、どこで戦ったか。
コンテストの趣旨は何か。審査する人は誰か。どんなホームページを期待しているか。どんなホームページを作れば、期待以上に喜んでもらえるか。
そんなことばかり考えて作りました。
受賞作品は、フルFLASHで構築した、アーティストの誕生ストーリーを展開していくサイトでした。技術よりも、アーティストの魅力を伝えることに全振りした。
結果が出たとき、自分の強みが分かりました。
私の強みは、デザイン力でもプログラミング力でもない。コンテンツ力だ。デザインのセンスに自信がない方はセンスがなくても大丈夫な理由もあわせて読んでみてください。
見た人の心を動かすホームページ。見た人に喜んでもらえるホームページ。見た人をファンにするホームページ。
1996年にあの本で出会った「魅せる」が、ここでひとつの形になったんです。
「魅せる」とは何か
30年経って、今の私はこう定義しています。
「魅せる」とは、魅了するということです。見た目のデザインで魅了する人もいますが、私はコンテンツ力で魅了することをいつも考えています。ホームページを見たら、商品やサービスの魅力がしっかりと伝わり、欲しくなる。欲しくなるという状態を「魅せる」と考えています。
「かっこいい」とは違います。「おしゃれ」とも違います。
見た人が、欲しくなる。 行きたくなる。申し込みたくなる。もっと知りたくなる。
その状態を作ることが、「魅せる」です。
「魅せる」の本質は、1996年から変わっていません。ファンサイトで1000人を集めたときも、コンテストでグランプリを取ったときも、クライアントのサイトで成果を出しているときも、やっていることの本質は同じです。
技術は30年で全部変わりました。テーブルレイアウトの時代、FLASHの時代、WordPressの時代、そしてAIの時代。道具は何度も変わった。
でも、「見てくれる人に、魅力を伝えて、動かす」という目的は、一度も変わっていません。
道具は変わった。でも、原理は変わらない
ここ数年で、AIが使えるようになりました。
私は今、リサーチ、デザイン、コーディング、ライティング、WordPress操作、マーケティングの各分野でAIを活用しています。制作時間は以前の3分の1から4分の1になりました。
でも、AIが変えたのは道具の部分です。
「誰に見てもらうか」「何を伝えるか」「どう動いてもらうか」——ここはAIには任せられません。AIは指示された通りに作ってくれますが、何を指示するかを決めるのは人間です。具体的なAIチームの率い方は別の記事で紹介しています。
そして、その「何を指示するか」を決めるために必要なのが、30年間ずっと磨いてきた「魅せる」の力です。
1996年に買った一冊の本で気づいたこと。それが30年後の今も、私の仕事の核にある。
教室を作った理由
最後に、なぜこの教室を作ったのかを書きます。
世の中のホームページ制作の教室やスクールを見ると、ほとんどが「作り方」を教えています。HTMLの書き方、CSSのプロパティ、WordPressの操作方法。
それは大事なことです。でも、それだけでは「魅せる」サイトは作れない。
「見てくれる人を意識する」ということ。「伝えたいこと」を「伝わること」に変換するということ。最初の3秒で心を掴むということ。見た人が自然に行動したくなる流れを作るということ。
これを教えてくれる教室が、なかったんです。
なかったから、自分がやることにしました。
30年間、ずっと考え続けてきた「魅せる」を、次の人に渡す場所を作りたかった。それがこの教室です。
あの本は、まだ手元にあります
1996年に大学の近くの書店で買った、『作ろう!魅せるホームページ実践テクニックガイド』。
表紙はもうだいぶ色あせています。中身も、今の技術からすれば完全に時代遅れです。
でも、あの本がなかったら、この教室はありませんでした。
「見てくれる人のことを考える」。たった一つの気づきが、30年分の仕事を作り、今の教室を作った。
技術は必ず変わります。今日覚えたHTMLのタグが、10年後に使われているかは分かりません。AIの使い方も、来年には変わっているかもしれない。
でも、「見てくれる人を魅了する」ことの価値は、変わりません。
それを一緒に学びたい方は、お待ちしています。
「自分の目的に合う学び方が分からない」という方は、何から学べばいい?——目的別の学習ルートも参考にしてください。
